『出会い』
それは素晴らしいものだが、形として様々なものがある。
学校で、職場で、偶然、必然・・・・・・・・・・・・・
だが、彼はそのどれでもなかった。
今、パソコンの前で熱心に画面を見つめている少年。
彼の場合の『出会い』。
それは、『インターネット』であった。
少し前までは全く普及されていなかったが、今時分は何をするにもインターネット。
そこには、素敵な出会いを求める人たちが沢山いた。
彼はそのうちの一人であった。
そして、彼は素敵な出会いをそこで見つけたのである。

『あのぉ・・・・・・・・・・・・』

彼女の名前は『リンゴ』
まぁ、ハンドルネームだというのは言うまでもないだろう。
ネット上で彼女と出会って、早くも二ヶ月が過ぎようとしていた。
呆然と平凡な毎日を過ごしていた彼にとっては、まさに新しい波そのものであった。

『今度・・お会いできませんか?』

ある日、その『リンゴ』から遠慮がちな言い方のメールが届いた。
彼女とは、偶然にも住んでる場所がそう離れてはいなかったのだ。
お互いに住んでいる場所を明かす訳にはいかないので、
最寄の駅を教えあったのだが、偶然にも聞きなれた近くの駅の名前が出たのだ。
もしかしたら、どこかですれ違っていたのかもしれない。

この二ヶ月間、頻繁にメールのやり取りを行い、彼は彼の想像の中で『リンゴ』を大きくしていた。
どんな顔なのだろうか?
どんな声色をしているのだろうか?
髪型は?
背丈は?
着ている服はどんなもの?

毎晩のように自分が想像する『リンゴ』を想い、夢に現れるように願う。
そうしていつしか、彼は彼の中の『リンゴ』を好きになってしまっていたのである。

『もちろんです!』

即座にキーボ−ドを叩いてそう書き、すぐにメールを返信したのだった。
「何ニヤニヤしてんのよ? 気持ち悪い」
と、パソコンの画面にメール送信完了の表示が出た瞬間だった。
「な・・・・・勝手に人の部屋を覗くなって言ってんだろ?」
突然の声に驚きながらもなんとか平静を装いつつ、
康樹は部屋の扉のところに立っている康樹の姉、結衣の方を見た。
「どうせ康樹のことだから、エッチなサイトでも見てたんでしょ?」
「違ぇよ!!」
康樹は本気で怒るようにして、自分の姉である結衣に怒鳴った。
「そうやって怒るところが怪しい」
「だから違うって! んなこと言いに来たんだったら出て行けよ!」
腕組みで扉の前に立つ結衣を、康樹はすぐに立ち上って部屋から追い出すように結衣の背中を押した。
「康樹もまだまだ子供ね・・・・・・・・・ん?」
と、康樹の部屋の前から立ち去ろうとした時、結衣のポケットに入っていた携帯電話が鳴った。
「あ、メールだ・・・・・」
「メールだ、じゃねぇよ。頼むからもう勝手に俺の部屋を覗いたりするのはやめろよな・・・・・」
康樹は、のんびりとポケットから携帯を取り出す我が姉を見てウンザリ気につぶやいた。
「次にやったら本気で怒るからな」
ようやく扉の外に結衣を追いやり、康樹はそう言い放って扉をバタンと閉めた。
「なによ・・・冗談で言ったのに・・・・・・本気になることないじゃない・・・・・」
右手で開いた携帯をぶらつかせながら、結衣は一人機嫌良く康樹の部屋の前を立ち去った。
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